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『つきのふね』 -森絵都 [小説]

つきのふね

つきのふね

  • 作者: 森 絵都
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/11/25
  • メディア: 文庫

(あらすじ)
中学2年の7月19日 梨利とさくらにとって最悪の一日となった。
抜けたいが、抜けられない万引きグループにいた二人が最後の仕事と決めて
入ったタツミマートで初めて捕まったのだ。
たとえ捕まって仲間は売らないと決めていた約束を破って、梨利に助けを求めたさくら。
唯一の親友の手を振り払って逃げた梨利。
さくらを逃がしてくれたタツミマートの店員、智さんの部屋はさくらの唯一の逃げ場となる。
柔らかい心地のいい場所と時間を提供してくれる智さんは、熱心に宇宙船の設計図を書き、人類を救う船を設計するのだという。
さくらと梨利の仲たがいを取り持とうとした勝田くんも智さんの不思議な部屋へ入り浸るようになる。
智さんが壊れ始めた。少しずつ。
梨利は売春斡旋容疑で警察の取調べを受ける。
バラバラに崩れ始める4人を再び結びつけるため、1998年最後の満月の夜に「つきのふね」は現れるのか?

さくらと梨利は、決してほめられた子供でなありません。
グループに誘われる前から、万引きしたりしてました。
あの日、決定的に二人を分けた1998年7月19日。
誘われるままになんとなく始めた組織だっての万引き。
こんなことをしていてはダメだって分かっているのに、抜けられない理由は学校での居場所がなくなるかもしれないということでした。

元締めをやっている男の子に、グループの中心の同級生が「ハマっ」ちゃったから。
それでも、二人の間ではいつかブレーキを踏まなきゃという気持ちはどこかにあった。
それを先にさくらが踏んで、梨利に言います。
「二人だったら怖くない」
と、グループを抜けることを宣言。
そして、最後に盗みに入ったスーパーでさくらは捕まったのでした。
万引きグループにも「もし捕まっても仲間を売ったりしない」という暗黙の了解のようなものがあって、それが唯一仲間の証みたいなものでした。
さくらは、タツミマートの店長に捕まったとき半ばパニックになってその約束を守れず梨利の名前を呼んで手を掴んでしまう。
掟をやぶってしまった自分を梨利は決して許さないだろうとそれ以降梨利から離れてしまいます。

逃げた梨利も、助けを求めている親友の手を振り切って逃げた自分が許せず、さくらはきっと自分のことは見捨ててしまうだろうとやはり離れてしまいます。
捕まったさくらは、名前や学校名など頑として黙秘を通しそして智さんに逃がしてもらいます。
引き寄せられるようについていった智さんの家に、さくらは居場所を見つけるのです。
そこは暖かく、居心地のいい空気の場所でした。


まだほんの子供だった頃、安心できる居心地のいい場所っていうのは確かにあったように思います。
それは、毎日自転車でただ回っているだけの同じコースであったり、
子供好きの近所の家だったり、いつも遊んでいる公園の滑り台の上だったり。
でも、中学になるととたんに全てが居心地の悪い場所になってしまうんですよね。

学校も、家も。友達と一緒に遊んでいるときでさえ・・・。
それが、思春期というもののせいなのか、はたまた反抗期だからなのか・・・
居心地のいい場所なんか探したって見つからない気がするんです。
なんか、そう思うと大人になってもずっと子供の頃のような「居心地のいい場所」を探してお父さんがたはお酒を飲みにいったりするのかもしれませんね。
そんなところでは見つからないの知ってるくせにねw
あぁ、唯一布団の中だけは居心地のいい場所かもしれませんw

智さんの家はさくらが見つけた「居心地のいい場所」でした。
静かに時間が過ぎるセピア色の部屋。
智さんがいれてくれるおいしいミルクコーヒー。
そのうちに、さくらの存在を忘れたように「仕事」をする智さんさえも、さくらを傷つけるものは何一つなかった。
そんな大切な空間に入り込んだ勝田くんに、初めは激しい怒りを感じるさくらでしたが、やがて智さんが精神のバランスを崩し自傷するに至って勝田くんと一緒になんとかしなければと奔走するのです。
さくらが物語が始まる前から求め続けていたもの。
それが、自分の居場所=安心できる場所だったのだと思います。
梨利や勝田くんと一緒にいるときは、それがさくらの居場所だった。
だが、それが壊れてしまって偶然見つけた智さんという居場所。
それは、勝田くんにも智さんにもいえることで、梨利も含めて全員が自分の居場所を探しています。
本当に求めたのは三人が、嫌、四人が互いに居心地よくすごせる「場所」だったのではないでしょうか。
そんなものは本当にあるのか?
あるのかもしれないし、ないかもしれない。
きっと人はいつも、どんな時も自分の立ち位置や、安息の場をもとめているんだな・・・。
表題の『つきのふね』には安息の地であるように思えたのでした。

森さんの作品は、中学生を主人公にしたものが多いです。
現在は文庫化されたものも多数ありますが、児童文学を中心に活動されてきた作家です。
確かに、小中学生向けに書かれたものでありながら、主人公達は、けっして生き生きとしていませんw
むしろ、どんよりと、重く、ただ流されながら、少しだけ自分というものに向かい合う。
何かに立ち向かったり、劇的な成長を遂げたりというようなことはありません。
それが、逆に生々しくあるので、子供よりむしろ私たち大人の共感を呼ぶのかもしれません。
そういう意味では森作品には夢も希望もありません。
あるのは、ただ等身大の今そのもの。
敢えて、それを見せ付けられることで、大人は自分が中学だった頃を思い出すのではなく、現在の自分と重ねあわせることができるのかもしれません。
大人には、今の子供たちの痛みが理解できたような気持ちになる作品。
子供たちには大人が子供の振りをして書いた胡散臭い作品・・・
なのかもしれませんww

かくいう私は「胡散臭い大人」なので、素直に賞賛派にたって読みましたが、読み直し読み直ししながらブログの記事を書いていると、
誰に向けて何を伝えたくて書いたのかな?
子供たちへ向けての作品なのか??と、考え初めて泥沼にはまってしまいました。
そして、小学生・中学生の方々はこの作品を読んでどんな感想を持ったのかが知りたくなりました。
大人は本当に子供の気持ちに寄り添えるんだろうか?
昔自分にも同じ時代が確かにあったはずなのに。・・・ね。


蛇足:何冊も立て続けに森さんの作品を読みましたが、ブログの記事にしようと思えば思うほどできませんでした。(昨年の10月からこの記事を書いたり消したりすること3回)
なら、書くの辞めればいいのに・・。
なんか、意地になっちゃってこれ書き上げないと先に進めないような気がして。
そーゆーところ、変に頑固ですねw
(時間かけたのに、何の意味もないような記事になってしまいました・・・orz)

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コメント 4

remora

胡散臭い大人からの書き込みです。w

> 大人は自分が中学だった頃を思い出すのではなく、現在の自分と重ねあわせることができるのかもしれません。

なるほど、です。

読んでいて感じたのは、
今でも、彼らと同じようなところでグルグル悩んでいるなぁ・・・ と。
あと・・・、大人だって寂しいンですヨ。。。 と。

このお話のお気に入りシーンは、
へび店長がさくらにバレッタをプレゼントするシーン。
相変わらず店長は、当時のさくらの思いを「自分なりに」しっくりと捉えているようで。w
さくらがしまいこんだ思いは掴みかねつつも、伝えたい感謝の気持ちはしっとりとさくらに伝わっていきます。
そんなココロのやり取りは、そこに居る皆を包みこんで、
ここのところ暗かった智さんの部屋にも、仄かな明かりが灯ったように感じられて。

ところで、バレッタって何だろう? - -

ググりました ^ ^ ; しっかりと。

あぁ♪
コレ付けてる子の後ろ姿って、可愛いンですヨ ^ ^ ← 超胡散臭い大人。

お話は、真の友が集うクライマックスへ・・・
てっきり、へび店長も仲間に入れてもらえると思っていたのは、
私だけでしょうか? - -

オヤヂって、やっぱ寂しいワ・・・ T T (置いてけぼりですか。。。)

読み終えて感じたのは、
素敵なファンタジーだったなぁ、と。

> そういう意味では森作品には夢も希望もありません。
↑ ww

ささやかな願いを壊すようなこともありませんでした。w

このお話を読んで、ファンタジーと感じてしまったのは、
胡散臭い大人だからでありましょうか? - -

それとも、
解説で見かけた「ファンタジー」の単語を早速刷り込まれて?・・・;;
胡散臭いを通り越して、終わってます・・・ orz
by remora (2007-02-10 14:38) 

にーに

>remoraサマ
胡散臭い発言の数々、毎度有難うございます。

やっぱり、いきましたか。
「おぢさんが、女子中学生を見る視点」
ですね。
なるほど、ならでわな見方、痛み入りますw

>このお話を読んで、ファンタジーと感じてしまったのは、
胡散臭い大人だからでありましょうか? - -

これをファンタジーだと言えるremoraさんの感性がすごいw
胡散臭さ通り過ぎてますぜ。

本文中にも書きましたが、森絵都の作品は感じたことを文にするのがすごく難しいです。
何か書きたいな、と思わせるのですが、いざ書こうと思うと上手く言葉を紡いでいくことができなくなる。
ムリヤリ捻り出してきたのは、この作品の一番好きな部分。
「智さんの部屋」です。
自分もセピア色の中でミルクコーヒーを飲んでみたい。
その気持ちを「居場所」に置き換えてみました。

と、コメント欄で言い訳してみたりしてw

>ところで、バレッタって何だろう? - -
>ググりました ^ ^ ; しっかりと。

>あぁ♪
>コレ付けてる子の後ろ姿って、可愛いンですヨ ^ ^ ← 超胡散臭い大人。

最近、バレッタつけてる子って見ないな~
自分もコンコルドを愛用してますし・・・
コンコルドって?
はい。ググリに行ってくださいw
by にーに (2007-02-15 18:14) 

remora

こんこるど・・・? - - ;

((今は無き、超音速旅客機?・・ と、まずはボケてみる。))

や・・ コレのことですか。
キレイな洗濯バサミですね~♪
by remora (2007-02-24 09:47) 

@

いきなりすいません。

読書感想文をこの本で書こうと思っています。

このブログを参考にさせていただきたいです。
すみませんが、よろしくお願いいたします。
by @ (2011-08-08 01:07) 

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